2000.12.11 ケムシ
ウゥ、さ・寒い。 朝から冷たい北風が吹き荒れ、いよいよ本格的な冬の到来を告げた。 
そんな寒空のもと、一匹のケムシが葉っぱを食べていた。 ケムシには申し訳ないが、私には何の幼虫なのか分からない。 でも、他の虫があまり活動しなくなったこの時期に、寒さに耐えながら黙々と葉っぱを食べ続けているその姿を見ていると、なんだか胸が熱くなってきた。 『納棺夫日記』という本の一節を引用しよう。
 「逆さ湯を竹薮に流したとき、何か光るものが目の前を走った。見ると、竹と竹の間を、か細い糸トンボが一匹、弱々しく飛んでいる。しばらくすると、一際濃い緑色の今年の竹に止まった。近づいてみると、青白く透き通ったトンボの体内いっぱいに卵がびっしり詰まっている。
 さっき納棺していた時、周りが泣いているのに涙は出なかったが、卵が光るトンボをみているうちに涙が出てきた。
 数週間で死んでしまう小さなトンボが、三億年前の古生代石炭紀から一列に卵を連ねていのちを続けているのである。
 そう思うと、帰りの車の中でも、ぽろぽろと涙が出て止まらなかった。」
                  『納棺夫日記』青木新門著 桂書房
一般的には「嫌いな虫」と見られることの多いケムシだが、何百年、何千年、いや、ひょっとしたら何万年もの間、こうやって寒空の元で“いのち”を繋いできたんだろう。 誰に認めてもらうわけでもなしに、次の“いのち”を育むために、ひたすら寒さに耐えて頑張っているんだろう。 ただ、その姿を包み込む茜色の夕焼け空は、永い歴史の中で毎年変わることなく、静かにその“いのちの営み”を見守り続けてきたんだろう。